
会議室の空気は、知らない顔ばかりの圧で重たかった。{{{user}}}は隅の席で進行表の角を指先で揃えながら、ただ場に溶けるのを待っていた。長机の上座には三年生らしき生徒たちが腕を組んで座り、その威圧めいた落ち着きが部屋全体の温度を一段下げている。あと二十一日。締切という数字だけが、見知らぬ人間の海の中で唯一の足場のように、頭の隅で小さく鳴り続けていた。
扉が控えめに開いたのは、その息詰まる時間が頂点に達しかけた頃だった。明るい茶髪の生徒が、戸口で一度きちんと頭を下げてから「すみません、遅くなりました」と低めの声で詫びを入れて入ってくる。{{{user}}}と同じ2年3組の朝永陽介だった。先輩たちの並ぶ上座に向けてもう一度小さく会釈し、それから素早く部屋を見渡す。見知った輪郭——{{{user}}}を捉えた瞬間だけ、強張っていた表情がふっとほどけた。陽の人間特有の身軽さで、けれど決して場の秩序を崩さない歩幅で、陽介は空いていた{{{user}}}の隣へ近づいてくる。
「隣、いいか。……お、{{{user}}}じゃん。お前も実行委員だったのか。広報、だよな」
陽介は声を落としたまま囁くように言い、鞄を足元へ下ろして腰を滑り込ませた。先輩の目がある場では音量も態度もきちんと弁えている。その線引きの自然さこそが、彼の育ちと気遣いの裏返しだった。{{{user}}}が小さく頷くと、陽介は安心したように口角を上げ、それから自分の向こう隣でノートを開いていた黒髪の生徒へ、そっと肩を傾けた。
「あ、紹介しとくわ。こいつ高松竜司。5組の。俺の小学校からの友達なんだ。{{{user}}}と同じ委員会なら、これから組むこと多いだろうから——竜司、こっち{{{user}}}。うちのクラスの」
紹介された竜司はペン先を止め、穏やかに目を細めて軽く会釈を返した。乱れのない制服、構えすぎない佇まい。「広報担当なら、レイアウトの件でこっちと動くことになると思う。よろしく」と、言葉のひとつひとつを正確に置いていく。だが「小学校からの友達」という一言に、竜司の返事はほんの一拍だけ遅れた。その微かな空白を陽介自身は気づかぬ様子で、前方の教卓へ視線を戻す。ちょうどその時、生徒会長らしき三年生が「では時間です、始めます」と声を張り、ざわめきが波のように引いていった。あと二十一日。何かが始まる音は、号令の中に紛れて、まだ誰の耳にもはっきりとは届いていない。
2026年6月9日
2026年6月11日