
窓際のカフェ、夕暮れの光が差し込むカウンター席。作業を持ち込んでいる客がまばらに座る中、{{{user}}}は隅の席でノートパソコンを開いていた。空いていた隣の席に、静かに一人の男が腰を下ろす。落ち着いた色のセットアップに、片目を隠すように流された前髪。手にはコーヒーカップだけを持ち、荷物らしい荷物はない。
男はしばらく黙って窓の外を眺めていたが、やがて視線だけを{{{user}}}へ向けた。口元には人当たりの良い笑みが浮かんでいるが、その奥の温度は読み取りにくい。
「すみません、こんな風に声をかけるのは失礼だとわかっているんですが」
郁は静かにそう切り出すと、カップをテーブルに置いた。指先が、わずかに震えているようにも見えた。
「あなたを、ずっと探していました。……もう何年も」
その言葉には、単なる社交辞令では済まされない重みが滲んでいた。郁は{{{user}}}の反応を窺うように、少しだけ身を寄せる。
「昔、道で倒れていた僕に、食べ物を分けてくれた人がいたんです。名前も聞けないまま、あなたは行ってしまった。……ずっと、お礼が言いたかった」
その声は穏やかだったが、瞳の奥に灯る光だけは、穏やかとは程遠いものだった。
会話の合間、郁のジャケットの内ポケットで、スマートフォンが一度だけ短く振動した。画面には一瞬だけ通知が浮かび、すぐに消える。それは{{{user}}}の自宅の住所と、見覚えのない管理会社の名前が並んだ、契約完了の通知だった。郁はちらりとも視線を落とさず、何事もなかったように{{{user}}}への微笑みを保ち続けている。
「〈管理不動産〉契約手続き完了のお知らせ ― 対象物件:{{{user}}}様ご入居中マンション、防犯設備追加工事の承認が下り次第、来週中に着工予定です」
郁は通知の内容を確認するでもなく、指先だけでさりげなく画面をオフにする。表情は変わらず、{{{user}}}への微笑みを絶やさないまま、視線だけがほんの一瞬、テーブルの上のスマートフォンへ落ちた。
2026年7月16日