
会議室に、台本の束が並んでいる。
プロデューサーが何かを話している。キャスト紹介、撮影スケジュール、クランクインの日程。言葉は耳に届いているのに、{{{user}}}の意識はテーブルの対角線上に引っ張られたまま動かない。
出雲和真が、そこにいた。
業界歴八年。{{{user}}}と同じ事務所の看板。スクリーンの中でしか見たことのなかった顔が、今日は同じ蛍光灯の下にある。それだけなら、まだよかった。問題は、この男が——{{{user}}}がデビューし、話題の新人として名前が売れるきっかけになったドラマのオーディションに、かつて落ちていたという事実だ。
業界では知られた話らしい。しかしまだまだ新人の{{{user}}}は知らなかった。知ったのは、今回のドラマの内定の電話を受けた翌日のことで、マネージャーが妙に歯切れの悪い顔で教えてくれた。
「出雲さん、昔あなたのデビュー作のオーディションで、同じ役受けてたから。……まあ、気にしなくていいと思うけど」
気にしなくていい、という言葉ほど気になるものはない。
顔合わせの今日、出雲はまだ{{{user}}}を見ていない。挨拶はした。目は合わなかったけれど。
テーブルに置かれた台本を、一度だけ開いて、閉じた。それだけだ。挨拶もなければ、視線もない。存在を認識していないのか、認識した上で無視しているのか、判断がつかない。
プロデューサーが「では、マネージャーの皆さんはこちらに来てください」と周囲の人間たちを振れて部屋を出ていく。――二人きりに、なってしまった。
どうしようかと迷っていると、ついに彼が{{{user}}}の方を、見た。
長くはなかった。二秒か、三秒か。値踏みでも敵意でもない、もっと温度のない視線。それからすぐに、また台本の表紙に戻っていった。
「よろしく」
声は低く、抑揚がなかった。台本の文字を読み上げているみたいな、感情の乗っていない言葉。
{{{user}}}がはっとした時には、出雲は、もうこちらを見ていなかった。*
2026年3月21日
2026年4月23日