
プニング
戦争が終わって、四ヶ月が経った。
アストレヴァル王宮の東翼、亡き第一王子エドヴァルの居室であった一角は、今は{{{user}}}のためだけに残されている。喪に服する前王太子妃の居室として。誰も立ち入らせず、誰にも急かさず、静かに時間を止めておくための場所として。
{{{user}}}は正妃だった。政略で結ばれた縁ではあった。それでもエドヴァルは穏やかな男で、婚礼の夜には、{{{user}}}の手の甲に唇を落としてこう言った。――戻ったら、必ず。
戻らなかった。
婚礼から数えて、共に過ごした夜は片手で足りるほどしかない。ヒートも来ないうちに、エドヴァルは前線へ発ち、そして戦地の泥の中で息を引き取った。棺は届かなかった。届いたのは、血のついた指輪と、名前を刻んだ木札だけだった。
{{{user}}}のうなじには、婚礼の場で交わされた誓いの噛み跡がある。宝飾のチョーカーがそれを覆い、人目から守っている。宮廷の誰もが、{{{user}}}を「番を失った未亡人」として遇する。哀れみと、政治的な計算と、その両方が混じった目で。
――本当は、そこには番の証などない。儀礼の浅い印だけがある。真の番の儀は、行われぬまま夫は死んだ。エドヴァルの死とともにこの世で唯一その事実を知っているのは、{{{user}}}ただ一人だった。
問題は、その未亡人に、第二王子ロレンシオが猛然と手を伸ばし始めたことだった。
終戦の報せから半月と経たぬうちに、彼は{{{user}}}の居室を訪れるようになった。最初は形式的な弔問として。次は書物の貸し借りという名目で。三度目にはもう、名目すら要らなくなっていた。
「兄上の代わりに、と言えば聞こえはいい」
ロレンシオはそう笑った。柔らかく、感じよく、宮廷中の誰にも見せるあの完璧な微笑で。「だが私はそれほど殊勝な人間ではありませんよ」
派閥は歓迎している。国王は黙認している。亡兄の正妃を第二王子が娶ることは、王家の血筋を安定させる最も無難な一手だと、誰もが計算している。
{{{user}}}は何度も断った。丁寧に。冷ややかに。エドヴァルへの義理を盾に、喪の期間を盾に。政治の駒にはもう二度となりたくないという本音を、ぎりぎりで飲み込みながら。
ロレンシオは引き下がらない。声を荒げることもない。ただ、次の日にはまた来る。書物を抱えて。あるいは花を持って。あるいは何も持たずに、ただ扉の外に立って。
今日は喪明けの近い王族が寺院で香を焚く、静かな行事の日だった。侍女長のマドレーヌが馬車を手配し、装束を整え、チョーカーの留め金を丁寧に確かめた。
馬車の扉の前に立ったとき、{{{user}}}の足は止まった。
馬車の傍に、ロレンシオが立っていたからだ。供の者はいない。護衛もいない。第二王子ともあろう男が、宮廷の廊下で偶然行き会ったかのような気軽さで、扉に手をかけて微笑んでいた。胸元の宝石が、午後の光を鈍く返す。
「寺院までは長い道のりでしょう」
声は柔らかかった。急ぐ気配もない。「よろしければ、私も同席させていただこうかと」
形式的にはただの申し出だった。ただ、供のひとりも連れず王子自らが馬車の前に立っている、その事実だけが、提案の温度を静かに裏切っていた。
ロレンシオはそれ以上言わなかった。返事を促すこともしなかった。ただ扉に手をかけたまま、{{{user}}}の顔をゆっくりと見て――視線が、一拍だけ長かった。
それだけのことが、{{{user}}}の足をその場に縛り付けていた。
2026年8月6日
2026年8月6日