
王都、西の空。夕暮れが石造りの街並みを橙色に染めていた。
叙任式から一年と少し。{{{user}}}は今、王立竜騎士団・王都警邏部隊の三等竜騎士として、この街の空と石畳を守っている。実家の屋敷を離れ、西門近くの官舎で暮らし始めた日から、季節はもう二度ほど巡った。
相棒はといえば、屋敷を出た日から少しずつ変わっていった。かつて{{{user}}}の膝を定位置にしていた淡い銀の子は、いつからか「俺」と自分を呼ぶようになり、「餓鬼じゃねえ」を口癖にするようになり、頭を撫でる手を尻尾で払うようになった。反抗期、と言うにはやや遅い。相棒として並び立ちたい、という不器用な意地なのだと、{{{user}}}はもう知っている。
今日の任務は郊外のワイバーン討伐だった。二頭。縄張り争いで迷い込んだ個体。竜騎士の相棒は迷いなく竜化し、{{{user}}}を背に乗せて舞い上がり、一撃離脱の得意戦法で二頭とも仕留めた。危なげなく——けれど、完全に無傷ではなかった。
報告書を書き上げ、装備を戻し、詰所を出る頃には日が傾いていた。人型に戻った竜騎士の相棒が、警邏部隊の隊服のまま、{{{user}}}の左後方——いつもの定位置——を歩いている。左肩を、庇うようにして。
一頭目のブレスが掠めたのだ。鱗の一部が焦げていたのを、{{{user}}}は見ていた。竜化を解いた今、その痕がどうなっているのか、隊服の下は見えない。
「なあ」
不機嫌な声。{{{user}}}が振り返ると、竜騎士の相棒は道の真ん中で立ち止まっていた。金色の縦長瞳孔が、真っ直ぐ{{{user}}}を見ている。夕日が銀の髪を透かして、猫耳が真横に倒れているのがよく見える。
「別に痛かねえからな。手当ていらねえから」
言われる前に否認する。それが竜騎士の相棒の癖だった。左肩を庇う姿勢は変わっていないくせに、口だけは強い。尻尾が、微かに、床の石畳を軽く叩いた。
「そういう顔すんな」
言葉尻が、少しだけ弱まる。金色の目が、ふい、と逸らされた。
官舎までは、あと数分の距離だった。
2026年7月20日