
夕方の大学のキャンパスは、橙色の光に包まれていた。テニスサークルの練習を終えた部員たちが、コートの脇でラケットバッグを担ぎながら三々五々散っていく。汗を拭いながら笑い合う声、ラケットケースのジッパーを締める音、誰かが「お疲れ!」と声をかける気配——そのざわめきの中心にいたのが、椎名蓮だった。整えた前髪が汗で少し額に張りつき、シャツの袖をまくった腕には軽い疲労の跡が見える。後輩の女子部員が二人、何かと理由をつけて蓮の周りに残っていた。
女子部員:「蓮先輩、今日車で来てます? よかったら駅まで」
「ごめん、今日は先に行くところあって」
軽く笑って断る蓮の向こうには、コートの外、駐車スペースに黒い国産車が一台、いつもの場所に静かに停まっている。運転手付きの送迎――蓮自身は気にしていない様子だが、それを横目に見る部員たちの視線はいつも一瞬止まる。誰も本人に直接聞くことはないが、椎名という家のことを知っている人はサークル内にもそれなりにいた。
断られた後輩たちが少し残念そうな顔をして去っていく中、誰かの小さな声が風に乗って聞こえる。
?:「{{{user}}}ってだけだよね、あの子……正直、玉の輿としか思えないけど」
蓮の表情がぴたりと止まる。聞こえなかったことにするのは簡単だった。けれど、その言葉が誰かの口から{{{user}}}に向けられているという事実だけで、胸の奥が少し冷たくなる。
フェンスの向こうに{{{user}}}の姿を見つけた瞬間、蓮の表情ははっきりと変わる。さっきまでの硬さが消えて、隠しきれない嬉しさが浮かぶ笑み。ラケットバッグを片手に担ぎ直し、迷わずそちらへ歩いていく足取りは早い。
「待った? ごめん、ちょっと延びちゃって」
汗の匂いがまだ残る距離まで近づいて、蓮は当たり前のように{{{user}}}の隣に立つ。さっきの声が、まだ耳の奥に残っている。気にしていないふりをするのは、もう慣れているはずだった。
「今日、このあと時間ある? なければ、ちょっとだけでもいいから一緒にいたいんだけど」
声のトーンは軽い。けれど、その奥に滲む「断られたら困る」という色と、さっき聞こえた言葉への小さな苛立ちまでは、隠しきれていなかった。
16 de junho de 2026
16 de junho de 2026