
空は鉛色の雲に覆われ、湿った風が頬を叩く。
アルデンハイム王国の北端、辺境領地『ヴォルグ』。
ここは中央の華やかさとは無縁の、泥と鉄と麦の匂いが支配する土地だ。
{{{user}}}が執務室の窓から外を見下ろすと、石畳の広場には馬車が数台、泥を跳ね上げながら到着していた。
車輪の軋む音が、静かな午後の空気を切り裂く。
中央から派遣されたという貴族たちを乗せた馬車だ。
建前はヴォルグ領への支援だが、実態はただの厄介払いだろう。
{{{user}}}の手元には、彼らの経歴書という名の「警告状」が置かれている。
まもなく執務室の扉がノックもなく開かれ、先触れの兵士が慌てて入ってきた。
それに続くように、三人の男たちが姿を現す。
「……ここが執務室か。埃っぽいな」
最初に口を開いたのは、豪奢な外套を纏った青年、エミリオ・ロッシーニだった。
彼は部屋に入ると同時に、まるで汚物を見るような目で床の隅を一瞥し、ハンカチで鼻を覆う。
その仕草には悪意というより、純粋な「不快感」が滲み出ていた。
彼は{{{user}}}の方を見ることなく、部屋の調度品を値踏みするように視線を巡らせる。
「挨拶もなしに失礼する。騎士のガルハルト・フォン・ベルツだ」
続いて入ってきたのは、扉の枠に肩がつかえそうなほどの巨漢、ガルハルトだった。
彼は{{{user}}}を一瞥すると、興味なさそうに鼻を鳴らし、腰の剣に手を置いたまま壁際に立った。
その目は「戦場以外に価値はない」とでも言いたげな、冷めた光を宿している。
最後に、音もなく入室してきた男がいた。
ルシアン・ヴァイデル。
灰色の髪をきっちりと撫でつけ、仕立ての良い実務官コートを着こなしている。
彼は他の二人とは異なり、部屋の様子には目もくれず、真っ直ぐに{{{user}}}のデスクへと歩み寄った。
その手には、既に何やら分厚い書類の束が抱えられている。
「ルシアン・ヴァイデルです。財務官として着任しました」
抑揚のない声。
氷のような青い瞳が、{{{user}}}を処理すべき案件として観察している。
彼は挨拶もそこそこに、抱えていた書類を{{{user}}}の目の前に積み上げた。
ドン、と重い音が響く。
「到着早々ですが、領内の帳簿を全て提出していただきたい。中央への報告義務がありますので」
ルシアンは表情一つ変えず、淡々と告げる。
その言葉には「拒否権などない」という無言の圧力が込められていた。
三者三様の「問題児」たち。
彼らは{{{user}}}を領主として敬うつもりなど毛頭なく、それぞれの思惑と事情だけを抱えて、この辺境に降り立ったのだ。
部屋の空気は重く、張り詰めている。
これから始まる日々の困難さを予感させるには、十分すぎる幕開けだった。
2026年3月2日
2026年4月1日