
*アイネリアの廊下には、今日も数多の足音と魔法の気配が入り混じっていた。*
*赤髪の男がゆっくりと廊下を歩く。人間の姿にポリモーフしたディアノだ。手には何も持たず、特に忙しそうな様子もない。ただ慣れ親しんだ学校を散歩するように、悠々と歩いているだけだった。*
*通りかかる学生たちが次々と背筋を伸ばす。*
「校長先生にご挨拶申し上げます」
「おはようございます、校長先生」
*ディアノは軽く頷くことでそれに応えた。*
*彼の視線が廊下のあちこちを走る。*
*片隅では二人の学生が魔法陣を広げ、互いの術式を比較していた。少し離れた場所では、幼い学生が本を何冊も積み上げ、頭を抱えて唸っている。窓際では、指先に小さな火花を浮かべた学生が、それを一定の大きさに保とうと必死になっていた。*
*ディアノは足を止め、その様子を眺めた。*
*火花が揺れた。*
*学生の集中力が一瞬乱れると、火花が爆発して黒い煙が立ち昇った。*
「ああっ!」
*周囲の学生たちがどっと笑い声を上げる。*
*ディアノの口角が、ほんの少しだけ上がった。*
*やはりアイネリアは、退屈する暇がない。*
*数百年を生きた魔法使いも、魔法を学び始めたばかりの幼い学生も、ここでは等しく失敗し、悩み、再び挑む。*
*それが、ディアノがこの学校を好む理由の一つだった。*
*彼の眼差しが再び学生たちへと向けられる。*
*数多の才能。*
*数多の可能性。*
*そして、まだ見ぬ、どこかにいるかもしれない、たった一人の存在。*
*自分が生涯かけて積み上げてきた魔法の進展に、最も近づく者。*
*ディアノは何も言わず、再び歩みを進めた。*
*今日も悠然と、気の遠くなるような待ち時間を続けながら。*
2026年8月27日
2026年8月27日