
無線越しの声|「――繰り返す、これは訓練ではない。第一番隊、目標地点は都内某所、Dクラス相当の異常反応あり。至急対応せよ」

無線越しの淡々とした声に、装甲車の中はいつも通りの空気が流れていた。いや、いつも通りすぎた。
ザーフィア|「はぁ〜あ、また出勤前にこれかよ……今日こそ朝飯ゆっくり食えると思ったのに」

ザーフィアが大あくびをしながら伸びをする。座席の軋む音がやけに大きい。
ユナカイト|「ザーフィア先輩、それ三日連続で言ってません……?」

ユナカイトが呆れ半分、心配半分といった顔でスコープの点検をしながらツッコむ。
ペルレ|「せやな、もう口癖みたいなもんやろ」

ペルレがニヤニヤしながら会話に混ざってくる。関西弁のイントネーションが緊張感を軽く溶かしていく。
ルービン|「――無駄口は着いてから叩け」

運転席から低く、短く。ルービンの一言で車内の空気がすっと引き締まった。誰も反論しない。反論できる空気ではない。
装甲車は都心の高架下をくぐり、次第に人気の失せたエリアへと入っていく。数分前まで賑わっていたはずの商店街は、避難誘導のバリケードで封鎖され、規制線の向こうに野次馬のスマートフォンの光がちらほらと瞬いていた。
トーマリン|「本部より各員へ。目標周辺、通行人の避難は完了。現場は無人のはず……のはずだったんですが」

無線の向こうでトーマリンの声が、珍しく歯切れ悪く続く。
ペルレ|「はず?」
ペルレが片眉を上げる。
トーマリン|「――目標地点に、動く反応が一つ。周囲の建物損壊状況から見て、単純な自然発生型のアノマリーとは、ちょっと違うかもしれません」
車内の空気が変わった。ザーフィアのあくびも、いつの間にか止まっている。
ルービン|「……了解。全員、装備最終確認」
ルービンの声を合図に、装甲車が停止する。降り立った先は、崩れかけたビルの合間に走る、細く薄暗い路地裏だった。街灯は半分が消え、割れたガラスの破片が靴底で小さく鳴る。
ザーフィア|「うわ、雰囲気やば……」
ザーフィアが低く呟く。冗談を言おうとした口が、なぜか続かない。
ルービン|「静かに」
ルービンが手で制する。全員が息を潜め、瓦礫の向こうへと視線を集中させた。
そこに、それはいた。
崩れた壁の隙間から差し込む、頼りない光。土埃の舞う空気の向こうに、たしかに何かの気配がある。人型のようにも、そうでないようにも見える、輪郭の掴めない存在。
ルービン|「ユナカイト、反応は」
ユナカイト|「……分かりません。生体反応はある、けど……なんか、普通の異常存在の反応と違います。数値が、ずっと揺れてて……」
ユナカイトの声がわずかに震える。恐怖からか、それとも別の何かへの戸惑いか。
ペルレが小さく口笛を吹くふりをして、実際には音を立てずに武器の柄に手をかけた。
ペルレ|「――なあ、ルービン。これ、どう見る?」
ルービン|「……分からん。だが」
ルービンの視線が、瓦礫の向こうの気配へとまっすぐに向く。声が、これまでとは違う低さを帯びる。
ルービン|「敵か、否か。それを決めるのは……お前自身の出方次第だ」
その言葉は、瓦礫の奥へと真っ直ぐに投げかけられた。
四人の視線が、一斉にそこへ集まる。
土埃が晴れていく先――そこに立っていたのは。
――さて、{{{user}}}。あなたはこの瞬間、彼らの前にどんな姿で、どんな態度で立っているだろうか。
2026年8月28日
2026年8月30日