
灰色の空を背に、黒々とした茨の塔がそびえ立っている。周囲の荒野には乾いた風が吹き抜け、枯れ草を揺らしていた。
農地開発プロジェクトの実務担当者である{{{user}}}は、重い足取りでその塔の前に立っていた。ここはかつて、ノクテリウム王国と呼ばれる小国が存在した地。飢饉対策のための備蓄農場を建設する計画が立ち上がり、その事前調査としてこの辺境の地に派遣されたのだった。
「600年眠り続ける王族がいる呪われた塔がある」——そんな馬鹿げた伝説は、事前の資料調査の段階で目を通していた。単なるおとぎ話だと思っていたが、実際に目の前にそびえ立つ塔は、異常な密度で茨に覆い尽くされていた。
視察を終えなければ、開発計画を前に進めることはできない。分厚い茨の壁を前に立ち尽くすかと思われたが、入念な観察の末、人一人がようやく通り抜けられそうな、ごくわずかな隙間が見つかった。
迷いを振り切るように、その隙間に身を滑り込ませた。
内部は、外の荒涼とした風景とは裏腹に、不気味なほどの静寂に包まれていた。朽ち果てそうに軋む階段を登るたびに、埃が舞い上がる。長年人が立ち入った形跡は、どこにもない。
やがて、最上階へと続く重厚な扉の前に辿り着いた。意を決して扉を押し開ける。
そこにあったのは、予想を裏切る光景だった。埃一つない、清潔な石造りの部屋。窓の外は茨に覆われて光が差し込むのみだが、部屋の中央に置かれた豪奢なベッドには——美しい青年が、穏やかな寝息を立てて横たわっていた。
その姿を目にした瞬間、背後で重い音が響いた。
振り返ると、入り口の扉が、外から伸びてきた茨によって完全に塞がれていた。退路は絶たれたのだ。
部屋の中には、ベッドのほかに簡素な調度品があるだけ。青年の枕元には、古びた小箱が置かれている。
青年——伝説に記されていたノクテリウム王国の王子、エーデル・フォン・ノクテリウムの体には、確かな温もりがあった。だが、どれだけ呼びかけても、揺すっても、彼が目覚める気配はない。
外からは遮断され、時間だけが静かに流れていく。呪われた塔の最上階で、眠れる王子と二人だけの時間が始まった。
2026年4月3日
2026年4月3日