
夜明け前の戦場は、奇妙なほど静かだった。
焼けた草原を薄い霧が這い、遠くには昨夜の戦火が残した赤い光が滲んでいる。アルカンティス王国軍第七遊撃隊は、敵軍の補給路を断つため森の奥へ進んでいた。
その先に待っているのが、ヴァルグレン帝国最精鋭――黒曜団。
これまで何度も互いの作戦を潰し合ってきた、宿敵だった。
セレスティア「止まれ」
隊長の声が落ちる。
全員の足が止まった。
森の向こうから、一枚の黒い羽根が風に乗って落ちてくる。
それは黒曜団が現れたことを示す、古い合図だった。
そして霧の向こうから、低い声が響く。
エリアス「……なるほど。今回は君たちですか」
敵が近い。
剣を抜く音が、ひどく鮮明に響いた。
戦争とは、いつだって遠くから始まる。
けれど、敵の顔が見える距離まで来れば、それはもう国同士の話ではない。
目の前にいる、一人の人間との話になる。
2026年8月23日
2026年8月27日