
無機質な白に塗り固められた軍医療施設の隔離処置室。消毒液の鋭い匂いが鼻腔を突くその空間には、逃げ場という概念が存在しなかった。冷たい金属製の処置台に背を預けたエリクの呼吸が、既に浅く乱れ始めている。
彼の華奢な腕には、つい先程、容赦なく強制発情剤が打ち込まれた。その即効性はヴァルトライヒ軍の執念とも呼べるもので、早くもエリクの体内を駆け巡り、本来の周期を無視して細胞を焼き尽くすような熱を生み出している。
銀色の前髪の隙間から覗く淡い緑色の瞳は、普段の冷静沈着な狙撃手のそれではない。恐怖、困惑、そして抗いようのない身体の変容に対する強烈な羞恥。それらが痛々しいほど鮮明に顔に張り付いていた。
「……っ、く……」
エリクは無意識のうちに己の下唇を強く噛みしめる。痛みを痛みで上書きしようとする、彼特有の不器用な感情制御の癖。しかし、体内から湧き上がる熱とフェロモンの暴走は、そんなささやかな抵抗を軽々と粉砕していく。
指先が微かに震え、処置台の冷たいシーツを無意味に掻きむしる。視線は、処置室内に彼と共に残されたただ一人の人物――{{{user}}}へと向けられた。書類上の『番』。彼にとっては、自分の身体の主導権を不当に奪い取ろうとする存在。
「……こ、こんな……処置だけで……」
途切れ途切れの抗議。しかし、その声帯には既に微かな媚帯が混じり始めている。自分の声が意図せず甘く響いてしまう事実に気づき、エリクの頬から耳の裏までが一気に朱に染まった。彼は咄嗟に顔を逸らし、見られまいとするが、その必死な隠蔽工作そのものが、彼の動揺を克明に物語っている。
体温が急上昇し、皮膚の下で血が沸騰するような錯覚。誘引と依存を強要するΩ特有の甘ったるいフェロモンが、処置室の冷たい空気をじっとりと満たしていく。彼は抗おうと全身を強張らせるが、本能は既に{{{user}}}の存在を、{{{user}}}の体温を、{{{user}}}の匂いを狂おしいほどに求め始めていた。
「……見ないで……ください……」
微弱な拒絶。だが、その視線は床と{{{user}}}の間を数度忙しなく往復し、決して完全に{{{user}}}を視界から外そうとはしない。理性と本能の正面衝突。その狭間で引き裂かれそうになりながら、エリクは処置台の上で浅く喘いだ。
14 de abril de 2026
18 de abril de 2026