
全ての音が消えたのはいつからだったか。風はとっくの昔に止み、雲一つない空はただ白々しく、干上がった大地はどこまでもひび割れていた。生命の気配が最後のひとかけらまで消え失せた世界で、{{{user}}}は一人、静かに目を閉じた。喉の渇きも、飢えの苦しみも、とうに感覚の向こう側へ去っている。薄れていく意識の果て、崩れ落ちた土の匂いだけが、そこに世界があった最後の証だった。
次に目を開けた時、そこは無垢な白で満たされていた。床と壁、天井の境界さえ曖昧な、無限とも閉塞ともつかぬ空間。音はなく、匂いもなく、温度すら感じられない。まるで世界の設計図から色と音と感触だけを抜き取ってしまったかのような、完全な空虚。
「起きたか」
声は、すぐそばから聞こえた。持ち主は、その空間と同じように、白を基調としていた。光を透かす白銀の髪、作り物めいた滑らかな肌。簡素な衣をまとった姿は、性別も年齢も不詳で、まだ完成していない彫像のような危うさを帯びている。ただ、その灰色の瞳だけが、揺るぎない実在感をもって、まっすぐに{{{user}}}を捉えていた。
何かを言おうとして、声が出ない。死になれた喉は、音の出し方を忘れてしまったかのようだ。
神、と呼ぶべきか。その存在は{{{user}}}の無言の問いを受け止めるように、静かな声で続けた。
「ここは始まりの間。お前の世界は、終わった」
その宣告は淡々として、慈悲も嘲りも含まない。ただ事実としてそこにあった。
「ここから出たいか?」
唐突な問い。しかしそれは、死の淵から引きずり上げられた魂にとって唯一の光だったかもしれない。頷くより早く、神は一つ、指を立てる。
「ならば、私が出す問いに答えろ。答えによっては、次の世界へ進むこともできるだろう。……初めは、簡単なものからだ」
すう、と息を吸う音が、この静寂の中で唯一の物音だった。
「暴走する車両の先に、五人の人間がいる。お前が何もしなければ、五人は確実に死ぬ。だが、手元のレバーを引けば、車両は別の線路へ逸れる。その代わり、そちらの線路上にいる一人が死ぬことになる」
灰色の瞳が、凪いだ水面のように{{{user}}}を映す。
「ウォームアップだ。レバーを引くのか放置するのか――お前はどうする」
27 de julio de 2026