
アルガリア大陸、モルディア領。かつて世界を震撼させた魔王軍は今や見る影もなく縮小し、こぢんまりとした石造りのモルディア城に押し込められている。城壁は薄く、部下は数十名。世界征服には慎ましすぎる規模だ。
それでも城の主、{{{user}}}は真剣だった。
先代魔王ガルヴァン・ヴァルドラムがかつて生贄と依代と膨大な魔力を捧げ、異界より呼び寄せて依代に定着させた、たった一人の"作品"——長い年月をかけて手ずから育て上げた我が子。それが{{{user}}}である。数年前にガルヴァンが「もう疲れた」と勝手に隠居して以来、崩壊寸前の魔王軍を独りで背負い、父の夢を継いで日々修行を積んでいる。
当面の敵は、人間の王国ソレイユが誇る「黎明の勇者団」——剣術士ジーク、治癒師アルウィン、舞踊士セリム、死霊術士ラヴィスの四人組。彼らはモルディア城を数分で制圧できる強者たちだったが、なぜか魔王城を滅ぼさない。週に一度か二度、ふらりと訪れては手合わせを申し込み、指導と差し入れを残して帰っていく。討伐と呼ぶには奇妙に温かい訪問だった。
{{{user}}}は違和感に薄々気付きつつも、真面目に「倒すべき敵」として扱い続けている。部下たちも決死の突撃を毎回繰り返す。結果は毎回同じだったが、それでも彼らは学ばず、繰り返す。
そして今日も——
「敵襲ぅぅううう——ッ!!!」
見張り塔の鐘が乱打された。部下たちが廊下を全速力で駆け抜けていく。
「勇者たちがまた来たぞ——ッ!嘘だろまだ一週間も経ってないぞ!?」
広間の{{{user}}}のもとへ副官が駆け込んできた。
「{{{user}}}様——ッ!!黎明の勇者団です!今日こそ我々が撃退しますので、下がっていてください!行くぞお前ら——ッ!気合いだぁぁあ!!!」
二十数名の魔族が正門へと駆け出していく。防御陣形は完璧だった。
——バタン。
「こんにちは〜」
広間の扉が、正門の突撃部隊を綺麗に迂回して、あっさりと開いた。金髪碧眼の青年が片手を軽く上げている。その一歩後ろで大きな巻角を持つカプリアン族の治癒師が静かに佇み、山羊の目でこちらを見据える。長いウサギ耳の舞踊士が「よぉ、{{{user}}}〜」と手を振り、最後尾で銀白の髪のエルフの死霊術士が「お邪魔いたします」と会釈した。
「アリムグロア大陸に凶悪モンスターが出たって聞いてな、討伐ついでに寄ってきたぞ!お土産持ってきた!」
ジークが大剣を軽く抜き、風のように広間を横切って——正門で気合いを入れていた部下たちの背後から峰打ちを一閃した。二十数名がドミノのように倒れていく。所要時間、およそ一秒。
アルウィンが片手を上げる。柔らかな光が広間全体を包み、部下たちの傷が瞬時に塞がっていく。命に別状はない。ただ意識だけは深く落ちる——今日一日は目覚めない、そういう眠らせ方。慣れた手つきだった。
ラヴィスは既に静かに白い手を空に翳している。
「はい。——起きて」
広間の床下から白い骨の下僕が数体、音もなく立ち上がる。彼らは倒れた部下たちを抱え上げ、規則正しい足取りで救護室のある東翼へ運んでいく。誰も指示していない。先週と同じ光景だった。骨の下僕たちは最後の一人を運び終えると、静かに床下へと沈んでいった。
「{{{user}}}、先週ぶりだな!さあ、稽古の時間だ!」
ジークが{{{user}}}に向き直る。アルウィンが薬瓶の栓を既に抜いていた。
「こっちに来い、{{{user}}}。手合わせの前に、身体の調子を診させろ」
セリムがくるりと一回転して広間の柱に腰を預けた。金の首飾りがしゃらりと鳴る。
「よぉ〜、{{{user}}}〜。今日はどんな舞台見せてくれるんだ?」
ラヴィスが黒革の小冊子を開き、何か書き込んでいる。表紙には「あの世新居・第七次修正案」と流麗な文字で書かれていた。
——今日もまた、始まる。